「私たちって、隣の席じゃなくなったら、もう話せないの?」

宮本くんは私の右手にそっと手を伸ばすと、ゆっくりと触れる。

その時初めて、自分が強い力で握りこぶしをつくっていて、その手が震えてきたことに気が付いた。

「……俺はそんなこと思ってないし、願ってもないよ」

宮本くんは大きな手で、私の握りこぶしを包み込む。

「俺は席が離れても普通に話したい。それに、高橋につらいことがあったらまた一緒におるって約束する。だから、そんなこと、聞かんといて。なんか寂しいわ」

「けど……」

うん? と彼は続きを促す。

私はその優しさに甘えて、続けた。

「前、言ってたじゃん。『隣の席やから』って」

誕生日に遊びに連れて行ってくれた時だって、どうして私の側にいてくれるのか尋ねた時、確かに彼は、『隣の席やし、困った時はお互い様やで』と答えたはずだ。

「まあ、それは言うたな」

宮本くんはあっさりと認めた。

「けどほんまは、隣の席じゃなくても、高橋と話したいと思ってたよ」

「……本当に?」

信じてもいいのかな。

彼がくれた、嬉しすぎる言葉を。

「うん」

「そっか」

彼の言葉が嬉しくて、じわじわとあたたかい気持ちが胸に広がる。

「だから、もう一人で泣いたりせんといてな?」

その優しい口調に、私は素直に「うん」と頷く。

「……一人で川に飛び込むのもあかんで?」

「わかってるって!」

いつも通りの明るい口調に戻った彼に、「ねえ、そのネタいつまで引っ張るの」と抗議する。

「まだしばらくは引っ張るかなあ。海への飛び込みもあかんで?」

「もうわかってるってば」

少しイジけた私の頭を、宮本くんはくしゃくしゃと撫でる。

その手に、鼓動が少し早まる。

「合宿も終わったし、夏休みの残りの間でまたどっか遊びに行こうか」

「……行きたい!」

彼の提案に即答すると、宮本くんは「ほんまに高橋は良い返事するなあ」と笑う。