すっかり黄昏時になり、どちらともなくそろそろ帰ろうか、という雰囲気になる。

楽しかった。嬉しかった。だから、帰るのがなんだか名残惜しい。

「どうしたん?」

気が付いたら、私はため息をついてしまっていたらしい。

「んー、楽しかったなあ、と思って」

「そうやな」

彼は私の気持ちを汲み取ったのか、エレベーターに向かおうとしていた足先を、また海の方へ向けた。

「どうせ来年も独り身やろうから、連れてきたるわ」

「え、本当!?」

彼を見上げる。いや、待って。

「“どうせ”ってなに?」

「あ、すまん、本音が……」

「本当にひどいよね!?」

ぎろりと見た私に、「睨むなよ」と彼は苦笑する。

「だから、焦って変な男捕まえるなよ?」

「……ご心配どうも」

私はまた誰かに恋をするのだろうか。

悠斗に抱いていたように、誰かと話すだけで幸せになったり、嬉しかったり、トキメいたり、はたまたちょっとの言葉で傷ついたり、するのだろうか。

きっとするんだろう。

だってまだ、十六歳だ。

悠斗との恋愛がすべてじゃない。そんなの、嫌だし。

「……来年は彼氏と過ごせるように頑張る」

「うん、応援してる」

彼はポンポンと私の頭を撫でた。

その手つきは今までの彼の態度とは全く違って優しくて、一瞬だけ不覚にも、胸の鼓動が早まった気がした。