「……泣いてもええよ」

黙ってしまった私に、宮本くんは空を見上げたまま告げた。

「今、俺しかおらんから。辛いなら、泣いてもええよ」

「……ありがとう」

彼の言葉が、じんわりと胸の中に広がる。

失恋した悲しみよりも、私を気遣ってくれた宮本くんの優しさに、少しだけ泣きたくなる。

きっと、夜だからだ。夜だから、感傷的になってしまっただけだ。
……全部、夜のせいだ。


「俺さ」

二人の間に静けさだけが存在する中、宮本くんは口を開いた。

「正直に言うと、人を好きになったことがないねん」

おずおずと彼を見る。

宮本くんはきっと私の視線に気づいたけれど、私とは目を合わせず、じっと空を見上げている。

「だから、なんでそんなに一途に想えるのか、全くわからん。それに正直、宇山のどこが好きなんかもわからん」

正直俺の方がイケメンやし愛想も良いやろ、と彼はおどけたように言う。

「けどさ、宇山を見るお前、いつも凄い幸せそうやったから……お前がどれだけ宇山のこと好きやったかは、なんとなくわかるよ。
『人を好きになったことがないくせに』って思うかもしれへんけど、お前が宇山のことほんまにすきやったっていうこと、俺には伝わっている。俺なりにわかってるし、ちゃんと知ってるから。お前が宇山のこと、すきやったってこと」

彼の言葉を聞いた瞬間、私の目から大粒の涙が零れ落ちた。

宮本くんのくせに。

宮本くんのくせに、どうしてきっと私が今一番欲しかった言葉を、言ってくれるんだろう。

彼が知ってくれていることで、この気持ちはきっときちんとこの世界に存在していたことが証明された気がした。

「いつか、宇山に言えたらいいな。ちゃんと『好き』って」

彼はフッと笑うと、私の頭をくしゃくしゃと撫でた。

「きっとお前なら言えるわ。それでフラれたら、また慰めてやるから」

「……フラれる前提で話を進めないでよ」

不服そうに言い返す私に、宮本くんは「ごめんごめん」と笑った。

いつも通りの軽快なやりとりが、なんだか胸に染みる。

目から零れ落ちた涙がスカートに作ったシミを見ると、少しだけ、心が晴れた気がした。