「面倒なことに巻き込んじゃってごめんね。貴重な昼休みなのにありがとう。教室に戻ろうか」

きっとそろそろ予鈴がなるはずだ。

「……大丈夫なん」

「うん?」

「教室、帰れる?」

本当は帰りたく無い。

今は悠斗と同じ空間にすら居たくない。

悠斗が視界に入ることを想像するだけで、息をすることが辛くなる。

でも。

「うん、戻れるよ」

「……どこかで一緒にサボるか」

「ううん、大丈夫」

そう言うと思った。

きっと私が教室へ戻らないといえば、宮本くんは心配して「一緒にサボろう」と言ってくれるだろうと思った。

ーー本当は宮本くんにも優しいところがあるって、さっき知ったから。


バスケ部の部室なら使える、という申し出を丁重に断り、来た道を戻る。

「あのさ」

さっきこの廊下を来た時よりもほんの少しだけ軽やかに歩き出した私を、宮本くんが呼びかけた。

「今日から放課後、どうすんの?」

「どうするって?」

「いつも宇山のこと待ってたやろ。今まで通り、宇山と一緒に帰るん?」

あ、そうか。これから、どうしたらいいんだろう。

これから悠斗は、彼女と一緒に帰るのかな。

そもそも彼女が出来たのなら、いくら幼馴染といえども、男女二人きりで帰るのは良くないよね。

もし私が彼女という立場だったら、戸惑うというか、正直嫌だと思う気がする。

でも、寂しいな。唯一二人っきりで過ごせる帰り道の時間は大好きだったのに。