「……なに?」

もう、どうしてこんなに絡んでくるんだろう。

そもそも、昨日、“極力関わらないようにしよう”って伝えて、この人は「わかった」と言ったはずなのに。

苛立ちを含んだ視線を彼に投げかけると、

「数学の宿題、見せて」

宮本くんは、仲の良い友達に頼むかのように、私に左手を差し出してきた。

「はい?」

「だから、数学の宿題、見せてって」

「嫌だけど」

どうして私が見せないといけないんだ。

普通に考えて見せるはずないのに、彼は私に断られると思っていなかったのか、

「なんで!?」と目を点にした。

「いやいや、『なんで!?』と聞かれても……。逆にどうして私が見せなきゃいけないの?」

友達でもないのに、と言いかけて、口を閉ざす。

いらないことまで言うと、余計に彼はつっかかってきそうだから。

「だって、隣の席やん。困った時はお互い様やろ?」

うーん、これはちょっとよくわかんない。けれど。

「それなら、飯尾くんに見せてもらえば……?」

私とは逆側に座る、男子生徒の名前を告げる。

「だってあいつと話したことないし」

「……私たちだって、別に世間話したことすらないよね」

「けど、話したことはあるやん。ほら、今も」

「はあ……」

なんというか……多分これ以上話しても、この人とは分かり合えない気がする。

私は心の中でため息をつく。