「じゃあ、楽しんでね」と笑顔で言ってくれた彼女と校門前で別れ、スマートフォン片手に悠斗が現れるのを待つ。

ちょうど他の部活も終わる時間なのか、それぞれの部活のジャージを着た生徒たちが私の隣を通り過ぎてゆく。

悠斗もそろそろ来るかな。

暇つぶしに開いていたSNSを閉じてスマートフォンをカバンにしまい、カバンのサイドポケットに入れたコンパクトミラーを取り出す。

うん、化粧は崩れていない。
さっき塗り直したおかげで、リップもムラなく綺麗に色がのっている。

最後に、巻いた髪を整えてミラーをしまおうとしたところ、たまたま前から歩いてきた男子生徒の集団のうちの一人と目があった。

「うわっ」

思わず声が出てしまう。

どうか近づいてきませんように。
あわよくば、私だと気づいていませんように。

露骨に彼から顔を背け、通り過ぎてくれることをただ祈る。

だけど、私の願いはどうも届かなかったようだった。

「おい」

恐る恐る顔をあげる。

目の前には、壁のように立ちはだかる宮本くんがいた。

「お前、俺のこと待ち伏せでもしてんの?」

「……はあ?」

冷ややかな視線を投げかけてくる彼を、負けじと睨みつける。

よかった。
お昼にはどこかに行ってしまっていた勇気と強気が、帰ってきてくれたみたいだ。

「待ち伏せとかほんまに気持ち悪いんやけど。もう近づくな、って言わんかった?」

「あのねえ」

これ見よがしに、思いっ切りため息をつく。

待ち伏せしている? この私が? 宮本くんを?

そんなことあるわけないのに。
本当に、自意識過剰にも程がある。

「教室でも言ったけど、私、別にあなたのこと」

「あ、高橋じゃん!!」

突然名前が呼ばれ、私は目の前の男子生徒から声が聞こえた方向へ視線を移す。

「佐々木くん!」

「おう、久しぶりだな~」

同じ中学に通っていた彼は、私の前に立つ男子生徒とは真逆の、爽やかで愛嬌のある笑みを浮かべながら私に手を振った。