「もし他に用事があるのなら、そっちを優先して?」

「おばさん……」

どうしたらいいんだろう。

宮本くんが戦っている会場にかけつけて、応援したい。

けれど、悠斗が頑張る姿も、ここで見ていたい。

それにこの試合は、悠斗が高校に入って初めて先発出場できた、記念すべきものだ。

やっぱり……。


「夏ぐらいだったかな」

ここに残る、と伝えようとしたとき、悠斗のお母さんがゆっくり口を開いた。

「ある日突然、悠斗が言ったの。『いつも真凛が応援してくれることって、当たり前のことじゃないんだな。感謝しないといけないんだな』って」

「悠斗が……?」

「うん、あの無愛想な私の息子が、よ」

悠斗のお母さんは、いたずらっぽく笑う。

ああ、きっと……元カノと別れた時かな。

“真凛って、変な奴だよな”

悠斗に言われたことを思い出した。

「悠斗、まりちゃんがいつも応援してくれていること、きちんと知っているのよ。多分口には出していないけれど、本当はとても感謝しているのよ」

「本当にいつもありがとうね」と感謝する悠斗のお母さんに、私は首を振る。

別に頼まれて応援しているわけじゃない。

悠斗が頑張っていることを知っているから応援したいだけだ。

それに改めて感謝されると、なんだか恥ずかしい。

「今日だって、他に用事があったのに、試合の半分もいてくれた。だからね、もう十分。後は私たちに任せて、もう行って?」

「え、いや、けど」

首を振る私に、悠斗のお母さんは「けど、じゃないのよ」と微笑んだ。

「こっちには、これほどたくさんの応援団がいるのよ? みんなでまりちゃんの分まで応援するから」

どうしよう。どうしたらいいんだろう。

絶対ここに留まるべきなのに。

それでも……やっぱり、私は彼に会いたい。

一度自分の気持ちを認めてしまうと、もう抑えきれなかった。