「宮本くんって、性格めちゃくちゃ悪いって聞くじゃん? いじめられたらどうしよう」

そう、私は正しいことをした。

正しいことをしたけれど、それとは別で、宮本くんはすこぶる性格が悪い。

さっきの発言通り、彼は自分に近づく女子に容赦がないのだ。

そしてきっと彼は、私のことを、“そういう女子”だと思っている。

「どうしよう。明日から学校来れなくなっちゃうかも」

「おい」

どうしよう、ともう一度言いかけた矢先、背後から声を掛けられる。

この低い声。
そしてこの圧。

振り向かなくても誰かわかっている。

「おい、高橋」

「え?」

今、私の名前を呼んだ? 私の名前、知っていたんだ?

「おい」とか「お前」とかではなく、自分の名前が呼ばれることは予想外で、うっかり振向いてしまう。

するとそこには、案の定、とても不機嫌そうな様子で、ポケットに両手を突っ込みながら、宮本くんが立っていた。

ああ、もう、どうして目を合わせちゃったんだろう。知らんぷりしておけばよかった。

一瞬にして、私は振り向いてしまったことを後悔する。