「それで、どうしたん、急に」

「いや、特に用事はないんだけど、試合勝てたし、『お疲れ様』って伝えたくて」

「そのためだけに、来てくれたん?」

「うん」

二人の間に沈黙が流れる。

やっぱり迷惑だっただろうか。

あれ? よく考えてみると、これって、もしかして。

「ごめん! 待ち伏せとかじゃない!」

「は!?」

「いや、ごめん。こんなことしたら、前に宮本くんが『困る』って言っていたファンと同じだよね……」

本当に私、なにやっているんだろう。

真っ直ぐ家に帰っていればよかった。

「違うわ。そんなん思ってない」

脳内での一人反省会を止めたのは、宮本くんの声だった。

「そもそも試合見に来てって頼んだの、俺やし。嬉しくてびっくりしただけ」

「……本当?」

「ほんまやわ。ウザい女には『ウザい』ってちゃんと言う」

「それは、確かに」

少し前に、私も『気持ち悪い』と言われたなあ、と嘆くと、「それはごめんやん」と彼は笑った。


「今日の試合どうやった?」

どこかカフェでも入ってから帰ろうか、と言う彼の提案を断り、私たちは電車に乗った。

試合で疲れているはずだ。私が勝手に来たのに、彼の負担になるようなことはしたくなかった。

「バスケの試合、初めてみたけれど、すごかった。私はね、シュートが決まる瞬間、一番好きだな」

自分では絶対に届かない高い場所に、ボールが綺麗な弧を描きながら入っていく。

それは見ていて、とても心地よかった。

「ほんま?? シュートが入る瞬間が一番好き!?」

「うん……!」

あまりの勢いに驚きながらも頷くと、「やっぱり高橋は話が分かる奴やわ」と宮本くんが興奮気味に話す。

「俺もバスケに夢中になったきっかけ、シュートが決まった時の心地よさやってん。自分より高い場所に、ボールはスッと入っていくやん? それが気持ちよくてさ~」

うんうん、と頷く。

彼がバスケについてこんなにも話してくれたのは初めてで、それが嬉しい。

少しだけ、彼のことを深く知ることが出来たような気もした。