深山(みやま)くんだ」

振り向くとクラスメイトの深山くんが私たちに手を降っている。

今思い出したけど、彼もバスケ部だったはず。部活終わりに、宮本くんや佐々木くんと話しているところを何度か見たことがあった。

彼は「来てくれたんだな〜」と笑顔で私たちの元へ駆け寄ってきてくれた。

「宮本から二人が来るって聞いていてさー。試合前に『もし迷っていたら、応援席まで連れて行ってやって』って頼まれてたんだ」

「そうだったんだ……ごめんね、わざわざ迎えに来てもらっちゃって。すっかり応援席がどこか聞くの忘れちゃってて」

「宮本も『応援席、伝えるの忘れてしもた』って言ってたよ」

宮本くんの口真似に笑うと、深山くんは「似てるだろ〜」と得意げに笑った。


こっちこっち、と引っ張られるままついていくと、学校名が印字された白いジャージを着ている人たちが現れた。

「俺たちの学校の応援席、一応ここらへんなんだ。」

深山くんが応援席のブロックを指差す。

「今日は初戦で、部員以外応援はほとんど来ないと思うから、好きな場所に座っていいよ」

「そうなんだ。ありがとう」

せっかくだから前の方で観なよ、という彼のアドバイスに従い、私と鈴ちゃんは前から二番目の列に座る。

チラッと隣にいるバスケ部員たちを見ると、大きな声で「ちわっす!!」と挨拶をされるものだから、私と鈴ちゃんは慌てて頭を下げ返した。

「それで? お目当ての宮本くんはどこにいるんだろう?」

「……お目当て、って」

そうなんだけど。はっきり言われるとなんだか恥ずかしい。

照れ隠しのように「他の選手も見るもん」と言うと、後ろから「宮本、かっこいいよ」と深山くんが言う。

「はい、これ。来てくれたお礼」

「……ありがとう! 気遣ってくれなくて良いのに」

「いやいや、初戦なのにわざわざ来てくれたんだから、これぐらいさせてよ」

深山くんは、ペットボトルのお茶を私と鈴ちゃんに渡してくれた。

「宮本、本当にかっこいいよ。教室にいる時とは見違えるようにかっこいいから、期待してていいよ」

「そっか、楽しみだね?」

鈴ちゃんが私の腕をつつく。

素直に「そうだね」と頷くと、「あ、出てきたよ」と深山くんがコートの端を指差す。

「応援席に戻らなくていいの?」と尋ねた鈴ちゃんに、深山くんは「宮本から二人のお世話を頼まれているから」と笑った。

「宮本からね、『きっとルール全く分かっていないから、説明してあげて』って言われてるんだ」

「優しいねえ、宮本くん」

鈴ちゃんの返しに、深山くんは「意外と、ね」と微笑んだ。


コートに選手が入ると同時に、応援席にいるバスケ部部員から、歓声があがる。

その歓声に応えるように宮本くんは応援席を見上げた後、ふと隣にいる私たちに目を向ける。

あっ……。

目が合うと宮本くんはわずかに口角をあげ、整列をした。