「事故扱いになっていますが、僕はそうではないことぐらいわかっています。サガンの小説、知ってますか?」

私は黙って頷いた。

私がかつて、母に、

「再婚してもいいんだよ」

と言ったのは、丁度「悲しみよこんにちは」を読み終えてしばらくした頃だったから。

「もともと、母は真面目で聡明な人でした。だから、精神を蝕まれていく様子は見るに耐えなかったけれど…やっぱり母は母のまま、最期まで聡明な人だったんだと思います」

彼は淡々と語るけれど、その瞳はとても深い悲しみを湛えていた。