【1(S)1】




出会いは、

ごくごく
普通の



自己紹介。



「后先生、この度は新しく先生の担当を任せる者を連れて参りました。どうかよろしくお願いしますね。」
「あ―・・はい」
私は少年誌でそこそこ売れている漫画家である。その出版社のお偉い様がわざわざ私の仕事場まで足を運んで連れて来た新人編集者らしき人物。
それは新人とは思えない程、
とてもとても
不愛想な面構えを向けていた。

「ほら、君も挨拶して。」
「・・はい。真木貢(まき みつぐ)です。」

促されないと自ら挨拶もできないのか、これが新人類というモノなのか。
「ち」Z世代めが。

ん?なに?今私を見たのか?
もしや、舌打ちが聞こえた?
まさか・・ね。
私は一応大人だから。表向きはとても社交的に振る舞っている

「后です。これから宜しくお願いします。」
ほら、私はちゃんと挨拶できる!笑顔も完璧であろう!

「先生はとてもいい方だから、新人を預けても安心ですよ。本当に助かります。」
「いえいえ。」
「では、私はこれで失礼します。真木君、後は先生の言う事を良く聞いて失礼の無いようにね。」
「・・・
・・はい。」

返事遅っ!

うぅわぁ・・大丈夫かな?この子。

「ははは。じゃ、先生、又今度お食事にでもご一緒しましょう。」
「ええ。楽しみにしてます。」
って、これくらい作れよ!若造。

はぁ・・もしかして編集社でのお荷物を体よく預けられたのか?私。
「ち」

「二度目・・です」
「え」

「舌打ち」

「!!!」
―っ、この子っ、やっぱ聞こえてたっ?!
心の中で打つ程の舌打ちをっ?

「え~と、聞き間違いじゃない?私は舌打ちしたことないし~」
ただのハッタリだ、誤魔化そ

「誤魔化せませんよ。」
「!」
「俺、耳いいんで。」

そう言い放ったと同時に見せた顔は、
先程までの不愛想でも無気力さでも無く

なぜか

「・・顔が、赤い?」

「////!!」

そうなぜか彼の顔は赤らんでいて、両腕は胸元で頑なに組んでいる。
その姿はまるで防御態勢・・

それに、

「なにその目、」

「!!」

潤みを帯びた瞳は私の事を真っすぐに見れていない。

・・この子。もしかして
怯えてる?

「ねぇ」
「!」

まさか、

私の本性を見抜いた?


「ちゃんと私の方を向きなさい」

「―、無・・理です」


「は。」

マジか。
確定じゃん


「へぇ。んじゃいいよ。私もあんたの前では通常運転させてもらうから。」

「え」

「誤魔化せないんだよね?」
「あっ、」
「なんでわかった?」
「・・」
「質問をかえよう。どこでわかった?」

「―、
・・ドアを開けた時・・」

「!?」

「一瞬にして先生、・・目が変化してた。」

「!!!」
こいつ、

そ・こ・か・ら、かよっつ!!

クッそ、しくった。
今まで誰にも気づかれる事なんて無かったのに、

「で?私が舌打ちを何度もするような性格が悪いヤツってわかってガッカリ?」
そう。本当の私は性格も態度も素行も口も、鬼が付くほど
悪い!(断言できるっ!)
だが!アシの前ではそんな態度はとっていない
今、あしらった出版社の方々にも神対応だ。
まあ、そのせいでしばしば無茶ブリさせられてはいるが。
だからこその人望であり、大人としての常識だと心得ている。
しかし、自分とは真逆な人格を同質させて生きているのだから
これはこれで結構疲れる。
疲れるんだよっ!
それが少し本音が出たくらいでなんだ、
それを読み取ったくらいでなんだ!

「それで、なんか文句でもあんの?」
担当代わりたいのなら代わればいい。
私もこんなヤツ、
「・・いえ、そんな」
「え?」

「むしろ、すいません。あの・・俺、
・・そっちの方が大好きです」

「・・・
・・へ?」

「うわっ//!す、すいませんっ、失礼なコトっ、」

え?
っと。
今、なんつっつた?

「すいま・・せんっ、」

これはなんだ
この胸から湧き上がってくる

ドス黒い感情はっ、

ドンッ!
気付いたらそいつに壁ドンしてた。

いきなりで驚いたんだろう
今まで背けていた目が私に向いた。
両腕は変わらず組んだまま。
いや、更に強まってる気がする

この期に及んで命乞いなんてしても無駄だよ
クソがき。
「うっ」
「え?」
な、前屈みになってしゃがみ込んだ?
この状況に、立ってられない程怖いのか?
しまった、つい

やりすぎた。

「あーその、大丈夫・・か?」
「・・・」
「お―い。」
参ったな、
更に怯えさせちゃったか、

「・・ト・・イレ」

「へ?」

「ト、トイレに行かせてください!」
そう言って私の横をすり抜けると、逃げるようにして2つ並ぶ扉の前で止まった。

「?」

「・・あの、トイレってどこでしょう」

ガクッ。

なんだ、トイレ我慢してたのか?
はぁ・・

「左」


パタン。

「なんも言わずだよ、何か言えよ。っつったく、今時の若いモンは」
んー、そういえば、ヤツは一体何歳なんだろ?
見た目からして、勝手に若者だと思ったんだけど、
まぁ、トイレから出てきたら聞いてみるか。

すぐに出て来ると思っていた。
が、何分たっても出てきやしない、

大きい方だったのか?

ふぅ「とりあえず仕事すっか。」

机に向かって下書きを始めていると、ランチに行っていたアシの子達が戻って来た。
「ただいま帰りました~」
「んー、お帰り。あそこのランチ美味しかった?」
「はい、とても♪またどこかおススメあったら教えてくださいねっ」
「了解♪」
そうそうこんないい雰囲気の仕事場なのだ
本来はね。
そして。
和気あいあいとしている中、その扉は開いた。
「・・」
お、やっとトイレから出て来たな
とりあえず皆に紹介しないと、
「皆、この人は・・」
「この度、先生の担当をすることとなりました真木貢と申します。
どうかよろしくお願い致します。」

へ・・?

「え~そうなんですかぁ、若いですねっ、私はアシ2年目の八千草(やちぐさ みこ)美子で~す。よろしく~」
「へぇ新しい担当さん、俺は1年目の田代誠弥(たしろ せいや)っす、よろしく」
「はい、宜しくお願い致します。今からスケジュールの確認をさせてもらいますがよろしいでしょうか」

へ?

「今回はカラーも差し込みますので大変かと思いますが、日数も少ない為、皆さんには、ご無理を言います。」
「はい」「はい」

へ?

「では、確認後、すぐに作業に入ってください」
「はいっ」「はいっ」

へえええぇえ??!!

「どうかしましたか?先生、手が止まってますが。」
「え?あ、いや、その、」
なんなの――――??!!
こいつの変貌ぶりはっつ!!

私よりも大きな猫被ってるじゃないかぁぁぁ~~~~っ!!!

ん?いや、猫はおかしいな、
どう考えても、さっきのヤツの方が猫っぽかった。
じゃあ、今のヤツは・・
「先生?」
「!!」
いつの間にか私の隣で、しかも顔近っ!!
さっきはあんなに怯えていたヤツとは思えない程、めっちゃ冷静な目に変わってやがる!
一体、こいつ

何モン?!!

「ちょっとお話が。」

「・・ああ、うん。じゃ、あっちの部屋で聞こう」
この仕事部屋として使用している場所は賃貸マンションの1室で、それとは別に私が仮眠できるよう、隣の部屋も借りている。
とりあえず私は、ヤツとその隣の部屋へと移動した。

さっきのコトもあるし、もしかして、担当辞めるとかの話かぁ?

隣の部屋の電気を付け、中に入ると、とりあえず冷蔵庫から1本のペットボトルを取り出した。
「お茶しかないけど、いい?」
「・・」
まただんまりかよ。
クソ。
さっきのあのはきはきした言動はどこへ行ったんだよ
クソ。
そう思いながら、カップにお茶を2人分注いでいると、

「先ほどはすいませんでした」
と、なにやらかき消されるような小声で謝罪する声がした。
先程とは、・・先ほどのコトか。
「あー、それは私も悪かったから気にしなくていいよ。」
「・・」
また黙ったか、はぁ。
でも、このカンジ・・は、先ほどの猫モードに戻ってる?
なんなんだ、全く。メンドくせぇなっ、
「・・」
しかも、ちっ。変わらず喋んねーしっ、
・・はぁ。
「正直、驚いたんだ、まさか、本性を見抜かれるなんてね。
あんたのコトも脅すつもりなかったんだけど、・・そのなんていうか、反応がね、」
そう。あんな反応すっから、
「つい、」
ついってなんだ?
つい?あああっ、なに自問自答してんだ私っ!

「いいんです。」
「え?」
「別に脅されたなんて思っていませんから、・・それよりも俺、ヤバくて」
「は?」
「すごくドキドキしてしまって、」
あ?
「我慢できなくなっちゃって、」
ぇ・・?
「俺、先生のような人に、あんな風に攻め立てられると・・その」
「え」
なに?なにを言ってる?
「人前だと、気付かれないように気を付けて振る舞ってます、先生と同じです。ただ、対応は真逆で、敢て、塩対応にしてます、でも実は、俺・・」

なに?なに?なにを言い出すんだ??!!

「超-、ドM体質なんですっっっ!!」

わぁぁぁああああぁぁ!!!言ったよ、言っちゃったよっ!!この子~~~~


硬直。
とは、初めて体験した。

部屋の隅っこで俯いて、小刻みに体を震わせているこいつに、
この私が、一瞬とはいえ、動きも声も止められた。

「くっ、」

屈辱!


「で?」
「え?」
「その超ド変態M野郎は、私に一体何を求めてる?」
「—―//!!」
「なに?言ってみ」
「・・あの、」
なに、早く言えっつーの
「担当をっ、代えたりとかしないでください!!」
「へ」
「こんな俺で、キモいでしょうけど、制御するようがんばりますんで
どうか、どうか、側にっ、先生の側に居させて下さいっ!」

「・・っとぉ」

「お願い致します!」

「・・」
ぽりぽり

「その・・なんで私?初対面だよね?それなのに、なんでそこまで執着すんの?」

「・・信じてもらえないかもしれないのですが、・・ド、」
「ど?」
「ド、」
「ど、なに?」
「~~~///」

なんだよっっ!!
あ~~~~もう!!!いい!
私の手は勝手に動いてた
ヤツの髪の毛を引っ張りっ―、あげてた。
「ぅ」
こんな酷い扱いされてんのに、それなのに、なんでこいつはまた縋る目を向ける
それじゃあまるで
誘ってるよにしか、っ

見えねぇだろがっ!

「・・ふ。」
そんな手に

のってやるもんか。

私の手は離れた。

離して、やった。

「な、んで」

なんでだと?

「さあ?」
教えてなんてやんねぇよ

「なんでもしますから」

「ダメだね。」
そんな簡単に叶えてやるかよ

「ぅ・・」

そうそう、そうやって悶えてろ。

「じゃ、私は仕事に戻るから、出る時、鍵かけて来い。」
そう言い部屋の鍵をシューズBOXの上に置いて私は部屋を後にした。

多分、あいつはこの後、1人で処理するんだろうな。
ズボンの上からでもわかる程だったし。
「は。ざまぁ」

究極ドSの私にはまだまだなんだよ
クソドMごときがっ、




「あれ?
そういえば、ティッシュ切れてなかったか・・な?」