嘘と、恋。




「大将、俺は中トロで、この子には厚焼き玉子お願い」


私の卵焼きが食べたいというリクエストを受けて、連れて来られたのはお寿司屋さん。


それも、けっこう高級っぽい。


あのセクキャバのお店の入っていたビルから歩いてすぐの所のお店なのだけど。


場所が場所だから、そんな感じのお客さんが店内に多い。


キャバ嬢やホストみたいな人がお客さんと来ている。


私と康生さんは、カウンター席で並んで座る。


目の前に出された熱い緑茶に口を付けた。


いい茶葉なのだろうか?


口の中に、青々とした茶畑が広がる。


「卵だけじゃなく。
食べたいものが有れば、なんでも食べなよ?
寿司もそうだけど、ここアワビの酒蒸しも凄く美味しいから」


康生さんはニコニコとしていて。


なんでこの人は、見ず知らずの私なんかにこんなに親切なのだろうか?


私、もしかして騙されているのでは?


何処か海外に売られるとか…。



「けど、本当に良かったよね。
ナツキ君に声をかけられて。
この辺り、けっこう悪い奴歩いてるから。
そんな奴に声掛けられてたら、まりあちゃん騙されて、どっか海外とかに売られてたかもよ?」


それは、今、私が考えていた事と似ていて。


この人が、その悪い人ではないのだろうか?と。


「まりあちゃん、本当に俺がいい人で良かったよね?」


そう言って笑っている顔は、まぎれもなくいい人に見えるのだけど。



「まりあちゃん、そんな暴力振るう男とは別れなよ?
体売ってそいつの借金を返してあげようなんて、その男、どんだけいい男なの?」


先程とは違い、ちょっとそんな私を呆れたように笑っている。


今康生さんが言った事、そうじゃない事もあるのだけど、わざわざ否定しなくてもいいだろう。


結果、セイ君の借金の為に私は風俗で働こうとしていたわけだし。