嘘と、恋。

「―――まりあ、です」


そう、ポツリと口にした。


「それ、本当の名前?」


それに、ドキッとしてしまう。


「ま、それが本当の名前かどうかはどうでもいいか。
まりあちゃん。
俺の事は、オーナーじゃなく、康生って呼んで?」


こうせいって呼んで?って、言われても。


それに、私の事もまりあちゃん、って。


なんか、フレンドリーな人だな。


そして、この店で働かせてくれないなら、
私はもう帰った方がいいのかな?


状況が、よく飲み込めない。


「気になっていたんだけど。
ずっとマスクしてるけど、花粉症?」


そう言われ、ギクッとしてしまう。


「…そうなんです。
花粉症酷くて」


今の時期、街中ではマスクをした人を見掛けるのも、珍しくない。


それは、一瞬で。


オーナーが伸ばした手が、さっと私の顔からマスクを奪い取った。


慌てて、私はそれを手で隠す。