「足りない分、これで手を打ってやるよ」
「そうか。
じゃあ、まりあちゃんの事は返して貰うから」
康生さんは、真っ赤に染まる左手の甲を右手で押さえていて。
「康生さん…凄い血が出て…」
恐怖なのか、私の声は震えている。
「大丈夫。
それより、まりあちゃん、今度はそのボストンバッグ、忘れないでちゃんと持って帰ろう?」
そう言われて、そうだった、と、慌ててそれを取りに行く。
それを手にし、急いで康生さんの元へと戻る。
「高崎、その女がお前にとってなんなのか知らねぇけど。
その女は、ババ抜きでいう所の、ババだぞ」
そのナガクラさんの言葉に、ボストンバッグを持つ手が震えて、落としそうになる。
この人、このボストンバッグの中を、見たんだ…。
「俺、子供の時トランプとかで遊んだ事ないから、あんまりルールよく分からないけど。
最後の最後にババを持ってなきゃ、いいんだろ?」
「そういう事だ」
ナガクラさんは、康生さんから私に目を向けると、ほんの少し口角を上げた。
それは、ババである私が康生さんを破滅に追い込む事を期待している。
「そういえば永倉、もうすぐお前、若頭に就任するんだよな?」
「ああ。
つっても、秋くらいの予定だから、すぐじゃねえ」
「その暁には、俺がお前を殺してあげるから。
それまで、くだらない死に方せずにいろよ」
康生さんもナガクラさんも、そんな物騒な話を世間話のように話していて。
ナガクラさんだけじゃなく、そんな康生さんにも恐怖を覚える。
「まりあちゃん。さっさと帰ろう」
そう言って、康生さんに手を引かれこの部屋から出た。
なんだか、ナガクラさんが色々な意味で怖くて、もう振り返る事はなかった。



