嘘と、恋。


「そんな男と別れて、お家に帰りな。
その男に暴力とかで脅されて別れてくれないとかなら、俺がそいつと話つけて―――」


「あ、あの違うんです!」


私がそう話を遮ると、え、と康生さんは口を閉ざした。


「違うんです。
私、家出していて…。
それで、セイ君…いえ、彼の所にお世話になってる状況で。
だから、彼の家出たら行く所なくて…。
彼の借金を私がってのも、康生さんが思っているような、彼の事が好きだから私が彼の借金を、とかじゃなくて…、違うくて…」



「俺からしたら、それ程違うとも思わないけど。
とにかく、そんな暴力振るう男と別れた方がいいよ。
どんな理由があるのかは知らないけど、そいつの借金をまりあちゃんが肩代わりする事もない。
そいつと居るのも借金の肩代わりも他に行く場所がないだけの理由なら。
俺の所に来ればいいよ?」


そう相変わらずの笑みで。


思わず、はい、とそれに頷いてしまいそうになるけど。



「なんで、そんなに私にしてくれるのですか?」


そう問うと、その答えの代わりなのか、
私のマスクを再び康生さんは取り上げるように外した。



「俺、男が女に暴力とか、本当に許せなくて。
本当なら、まりあちゃんの事ナツキ君に預けられたと言っても、
適当に説得して帰してるだけだけど。
とりあえず、そのアザが消えるのを見届けないと」


康生さんがそう言い終えると同時に、私の厚焼き玉子が運ばれて来た。


「食べなよ?」


それに、素直に頷いた。


そして、箸を割り、その卵焼きを口に運ぶと、とても甘くて。


「まりあちゃん。
箸の持ち方悪いね?
こうだよ」


康生さんは私の右手に握られた箸を持たせ直すように、
両手で触れて来る。


その温もりに、ちょっと安心した。


「俺も昔持ち方悪くて。
大人になって、直したんだ」


「持ちにくいです…」


その正しい持ち方で握らされた箸を動かそうとするけど、
それは窮屈で。


「箸の持ち方一つでどんな家庭で育ったのだろうか?とか、
何も知らない他人に思われる事もあるから」


そう言われ、箸を持つ手に力が入る。


時間が掛かるかもしれないけど、この窮屈さに慣れよう。