そんなある日の昼休み、私が廊下を歩いていると、後ろから声を掛けられた。

「佐々木さん」

振り返ると、そこにいたのは昨年同じクラスだった飯田くん。

「何?」

私が足を止めると、飯田くんは隣に並んだ。

「あのさ、ずっと聞きたかったんだけど、佐々木さんって、倉本と付き合ってるの?」

そういう噂があることは、私も知ってる。

毎日、一緒に帰ってるから、そう思われても仕方ないし、内心、ちょっと嬉しかったりするから、あえて否定せず放置している。

でも、直接聞かれたら、嘘はつけない。

「ううん。部活が一緒だったから、仲がいいだけ」

私がそう言うと、飯田くんは、ほっとしたように笑みをこぼした。

「そっか。倉本と、毎日、一緒に帰ってるから、付き合ってるのかと思ってた。何か約束してるの?」

飯田くんはまた少しかたい表情に戻って尋ねる。

「約束? 下校の?」

私が尋ね返すと、飯田くんは「うん」とうなずく。

「別に約束してるわけじゃないよ。部活中からの習慣みたいなもの」

でも、それが嬉しかったりもする。

「じゃあさ、今日、一緒に帰ってもいい?」

「えっ?」

突然の申し出に、私は一瞬目を丸くする。

「一緒にって、3人で?」

私が思ったまま尋ねると、飯田くんは思わず吹き出した。

「プッ! まさか! 俺と2人で。俺とじゃ、嫌?」

笑いながらも、どこか心配そうに尋ねる飯田くん。

飯田くんとは去年の文化祭の時、クラスでやった模擬店のドーナツ屋さんの店番のシフトが一緒だった。

2人でお客さんをさばきながら、1時間おしゃべりをしてたのは、とても楽しかった。

「嫌じゃないけど……」

倉本くんと一緒の方がいいなんて言えない私は、言葉尻をにごす。

「じゃ、決まり! 放課後、教室まで迎えに行くから待ってて」

そう言った飯田くんは、嬉しそうに笑うと、手を振って教室へと戻っていく。


どうしよう……