「佐々木、帰るぞ!」

私にそう声を掛けながら、廊下側の席の倉本くんが、窓際の席でもたもたと帰り支度をする私の所へ歩いてくる。

「うん。あ、でも、職員室、寄って。英語のノート出して来なきゃ」

私は、一度はリュックにしまった英語のノートを、またガサゴソと探して取り出す。

私たちは、ついこの間まで同じサッカー部だった。

ミッドフィルダーの倉本くんとマネージャーの私。

入部したばかりの1年生の頃から、ずっと一緒に活動してきた。

そして、4ヶ月前、インターハイの予選に敗退して、私たち3年生は引退した。


サッカー部は割と遅い時間まで練習がある。

だから、帰る方向が同じ倉本くんは、1年生の頃から私を気遣って、毎日、一緒に帰って、家の前まで送ってくれてた。

その頃からの習慣なのか、倉本くんは、卒部した今でも、当然のように私と下校する。

同じクラスだから、声を掛けやすいっていうのもあるかもしれないけど。


私は、倉本くんと一緒に教室を出ると、職員室に寄って、授業中に終わらなかった課題のノートを提出する。

その間、倉本くんは職員室前の廊下でつまらなそうに立って待っていてくれる。

「失礼しました」

私が職員室の入り口で一礼して廊下に出ると、倉本くんはうっすらと笑顔を見せた。

「じゃ、帰ろ」

私は倉本くんに促され、一緒に昇降口から自転車置き場へと向かう。

2人で連れ立って、自転車で30分ほど、取り留めのない話をしながら、帰宅する。

きっと、倉本くん1人だったら、この距離、30分もかからないだろう。

鈍臭い私にいつも文句ひとつ言わず、合わせてくれてる。

倉本くんは、いつも優しいから。