泣き声がする。



誰だろう。

どうしてだろう。


この気持ちは、何だろう。




ゆっくりと瞼を押し上げた。

まばゆい光に包まれる。


あぁ、ここはいつもと同じ、真っ白な部屋に独り――




「まりあ……!」

「……え?」




――誰かが、いる。



突然、見知らぬ女性に抱きしめられた。

まりあ、まりあ、と何度もたしかめるように名を呼び、濡れた頬をすり寄せる。




「よかった……。本当に……生きててよかった……!」

「あ、あの、アタシ――」

「手術、無事に成功したんだよ、まりあ」




女性のうしろから、面識のないはずの男性が涙ながらにほほえみかけてくる。




「これで心臓はずっと動き続けられるわ」

「これから先、長く、一緒にいられるぞ。家族とも、好きな人とも」




何も聞けない空気だった。

されるがまま、体にやさしい温もりが伝わっていった。



誰なんだろう。

どうしてここにいるんだろう。


この気持ちは、何なんだろう。




「さ、元気になったお顔を、お母さんにようく見せて?」




本当は、気づいてる。

鏡を見なくてもわかる。



感触が、感覚が。

――この親愛なる心臓が。


鮮明なシグナルを送ってくる。