はたと我に返った少女は、ひとこと謝り、自己紹介してくれた。
「わ、わたしは、花室 鈴子といいます」
「……花室?」
その苗字って……。
「びっくりするよな」
含み笑いしたウノくんが、共感を示してくれる。
「この子――鈴子ちゃんが、鈴夏の妹だなんてさ」
言葉が出てこない。
その代わりに、こくこくっと高速で首を縦に振った。
びっくりもびっくり。
心臓がぴょんっと飛び出そうだったくらい!
でも……そっか、そうだったんだ。
驚きと同じくらい、納得もしてる。
だから雰囲気がちがったんだね。
「ボクのいもーと、かわいーでしょー?」
「っうん! とっても! かわいい!」
「だろー?」
「……あ、ありがとう、ございます」
「照れてる鈴子はレアだよ! 写真撮らねば!」
「やめて」
家族。兄妹。
その絆は、アタシ自身には失いものだ。
とうに手放してしまった。
苦しかった。
さびしかった。
心臓が痛くてたまらなかった。
後悔していないと言えば、嘘になる。
うらやましいと口に出すのは、おこがましい。
だからかな……ヒトの愛に憧れ、愛でてしまうのは。
「鈴夏さんって呼んでるから、最初カノジョさんかと思った……」
「ボクらカレカノだって、ハニー」
「鈴夏さん気色悪い」
「いやがってるとこもかわいいね」
「……シスコンめ。さっきのヤツらと同類じゃねえか」
ふたりがまた言い合いを始める。
その隙に、鈴子さんは兄のそばを離れていく。ずいぶんとクールな子だなあ。
「あっ、おい、鈴子!」
「ひとりで帰るから放っておいて」
「気をつけろよ! また絡まれたらすぐ飛んで行くから!」
返事はない。
けれど、伝えられただけ満足そうで。
首にかけていたヘッドフォンを、うれしそうに装着した。



