マリアの心臓




「……やめてあげて」




やむを得ずストップをかけたのは、うしろの小柄な少女だった。




「ほーい」




さっきと打って変わって、いい返事。

ぱっと手を離される。




「お、覚えとけよ!」

「次はこうはいかねえぞ!」




台本のような捨て台詞を残し、お兄さんがたは逃げていく。

追おうとした、手荒なヒーローを、また少女が引き留めた。




「……鈴夏さん、どうして来たの」

「そりゃあ来るだろ! 大事な大事なハニーに何かあっちゃ大変じゃん!」

「ハニーって何」




えーっと……?

おふたり、明らかに初対面じゃないね?


ぐいぐいとこられて冷たくあしらう男女の構図は、さっき同じ。

なのに、雰囲気がふわふわとやさしいのはどうしてだろう。


蚊帳の外で呆然としているアタシに、少女が気づき、申し訳なさそうに眉を下げた。




「すみません。助けてくださってありがとうございます」

「い、いえ、とんでもない……!」

「おー、そうだった! いやあ、見直したよ! あんたって、案外いいヤツだったんだな!」

「そ、そんな……」

「悪女ちゃんなんて呼んで悪かった!」




やけに機嫌よさそうに頭を撫でられた。


あぁ、どうしよう。
直球でほめられるとうれしいな。にやけちゃうな。

でもアタシが追い払ったわけじゃないから、素直に受け取っていいものか……。うーむ、悩ましい……。