マリアの心臓



白熱した攻防戦のなか、右隣では「やっぱり……」とウノくんが額に手を当てている。


とうとう男性陣のひとりが物理的な接触を図る。

グイッと腕をつかみ上げた。




「い、いや……!」




防衛本能からくる、本気の拒絶反応。

震えおののく渦中の人物と、目が合った。



背丈も肩幅も小さな、猫のような美少女だった。


隣の女子中学の、ジャンパースカートの制服。

振り乱された、黒くて長い髪。



気づいたら、体が動いていた。




「離してあげてください!」

「ちょっ、ゆ、優木!?」




男性陣と少女の間に、堂々と割って入った。

ハウスのジェスチャーをしてるウノくんをよそに、力任せの無骨な手を睨みつける。




「何、この子。きみの知り合い?」

「こっちもかわいーじゃん」

「離してやったら、あんたが相手してくれんの?」




だんだんと赤くなっていく、少女の腕。

易々と捕まえ続けるその手を、指先から一本一本、慎重に外してあげる。




「がんばって手ぇ離してあげようとして、いい子ちゃんだねぇ」

「い、いや……」

「ん?」

「この子、意外と力、つよ……」

「お兄さんがた、よろしいですか?」




人差し指、中指、次は薬指。

はがした指は、また腕を縛り付けないように、ひとまとめにしてつかんでおく。


全力を出した健康体は、そう甘くない。




「無理やりはいけませんよ」

「え、説教?」

「この子に本気なら、ちゃんと段階を踏まなければ!」




説教するにしたって、そこじゃねえだろ……。
と、ウノくんの独り言が聞こえた気がするけど、風の音だったかもしれない。