マリアの心臓



自分で自分の気持ちを否定しちゃわないで。


迷わなくていいんだよ。

素直でいいの。


感情に正解なんてものはないんだよ。




「アタシもだよ」

「え?」

「好きって言われたら、アタシもうれしくなる!」




恋のことはよく知らないけどね。

愛のことなら、ちょっとは知ってる。


どんな痛みも、涙も、すくってくれるの。




「『好き』の言葉には、きっと魔法がかかってるんだと思う。だから伝えるほうも伝えられるほうも、特別に感じるんだよ」




勇気も覚悟も、めいっぱい必要で。

それでも消えるときは、儚くて。


そんな、純粋で不透明な言葉を、どうしたら無価値にできようか。



ちっぽけでも、不純だろうと、揺れ動いてしまう。

落ち込んでいればいるときほど、心の奥のほうにまで突き刺さる。


それが変わるきっかけになることだってあるんだよ、きっと。


きっと、ね。




「魔法、ね……。やっぱ、毎日『好き』っつってるヤツはちげえな」

「うん……すごいよね」

「自画自賛かよ」




そうじゃなくって!とあわてふためくと、ウノくんにお腹の底から笑われた。


今日イチのスマイルだ。
キラキラだね。

自画自賛でも、なんでもいいか。

元気が一番だよ!


つられてアタシも笑みがこぼれた。




「優木、ありがとな。センパイに言われたとおり、前向きに考えてみることにするよ」




清々しい様子でぐっと腕を、そして膝も、おもむろに伸ばす。

オレンジの日差しに逆光し、ウノくんのしゃんとしたシルエットが浮かぶ。


まぶしくて目をつむりかけ――ハッと息を呑む。


彼の死角に、細く鋭い、一本の枝。

少しでも動いたら、左目に刺さっちゃう……!




「危ないっ!!」




窓枠から身を乗り出し、彼の腰に腕を回す。

思いっきり強くうしろに引っ張った。




「うおっ!? 何!? どした!?」

「そこ。枝があるから気をつけて」

「あ……ありがと……」




彼の顔に、かすり傷ひとつない。

間一髪だった。


ほっとするアタシを横目に、ウノくんはほんのりと熱の帯びた左の瞼をさすった。