マリアの心臓



ちょっと前までバカップルみてえだったのにな、と。

やけくそ気味に笑い飛ばそうとするも、陰り、曇っては、風が吹き荒れる。




「はあ……泣いたよ。衛や鈴夏には、これでよかったんだって言われたけど、おれは本気だったから……」




知ってるよ。
この目で見たから。

あのとき、ふたりとも甘い表情をしてた。

アタシの目には、そこに嘘はなかったように見えたんだよ。




「今日も涙腺やばくて。授業にも集中できなかった」

「言われてみれば……先生にあてられても、だんまりだったね」

「え。おれ、あてられてたことあった?」

「……自覚すらしてなかったんだね」




失恋って、それほど重症なものなのか。

明確な薬も、手術もないんじゃ、泣くことしかできないね。




「自分で思ってた以上に、抜け殻だったみてえだな……」




でも、とウノくんは、夕焼けを飲みこむ木陰を見つめた。




「今はもう、悲しさよりうれしさが勝っちまってる。喋ったこともねえヤツだったのに、好きって言われたくらいで……」

「でもそれは……」

「わかってる。おれ、ちょろいよな」




自嘲げにしかめられた表情。

いつもは感情を真っ直ぐに乗せているけれど、今はいつになくぐちゃぐちゃだ。

感情が迷子になってる。