マリアの心臓




「ゆ、優木!?」

「たんこぶできてない?」

「で、できてねえけど……なんでここに……」




あ! アタシまた、つい……!

ギクリと典型的なリアクションをしてしまえば、「まさか」と彼は目を眇させる。




「まぁた盗み見か?」

「ご、ごめんなさい……!!」

「コラ! ……なんつって」




鋭利な三角形にすぼめられた目は、すぐにやわくほぐれていく。




「ははっ、いいよ。白昼堂々とやってるおれらもおれらだし、そもそもはなっから人目気にしてねえし」




すると今度は、やるせなく伏せられていく。

頬は赤みが差しているのに、そこはかとなくブルーなような。




「……大丈夫?」




聞かずにはいられなかった。

もう一度、しっかりと目を合わせて。


アタシの思い違いだろうか。




「だいじょ……」

「……」

「……ばねぇかも」




こつん、と壁に触れさせた後頭部は、先ほどの勢いや衝撃はないはずなのに、それ以上の痛みを伴っているように見えた。


だって。
ちょっと震えてる。




「今の、ぜんぶ聞いてた、よな?」

「うん……」

「昨日突然フラれたんだ。電話で、ただ『もう飽きた』って」




昨日……そんな直近のことだったんだ。