「ねえねえ」
「ツインテールの、あの子さ」
「――あれ……? また、雰囲気変わった……?」
たどたどしい足取りで、正門の前まで歩み寄る。
またたく間に、数え切れないほどの視線に射抜かれた。
嘲りも鋭さも、ない。
たぶん、ぜったい、いつもとは、ちがう。
それでも、向かう先は、いつなんどきも同じ。
「っ、え、……エイちゃん……!」
耳上できゅっとリボン結びにしたツインテールが、追い風に舞い、たおやかに艷めく。
なんとか絞りだした声は、息をするよりずっと苦しかった。
だけど、いいの。
この苦しさは、弱さじゃない。
やさしすぎるくらいの、愛がゆえ。
「ねえ! エイちゃん! ……待って!」
「……ん? あ、優木じゃん!」
「え……?」
「マリ……ッ、あぁ ……本当だ。優木、まりあだ」
校舎に入りかけた、長身の男の子が3人、ほぼ同時に振り返った。
山本は、周囲のにぎやかさを相殺するほどの、はつらつパワーであいさつしてくれる。
ヘッドフォンの片耳をずらした花室は、青空を仰ぎながら、琥珀色の瞳を揺らめかせる。
そして、大好きな人は、
「……まりあ」
「っ、」
「おいで」
困ったような、照れくさそうな笑みをこぼして、傷だらけの腕を広げた。
「エイちゃん……っ!」
たまらずカバンを投げ捨て、駆け寄った。
腕の中に飛びつき、抱きしめ合った。
小指だけではもう足りない。
赤い糸を体に巻き付けるかのように、強く強くしがみつく。
「まりあ」
「うん、あたしだよ。まりあだよ……!」
「あぁ、……まりあ、」
涙で濡れても、ちっとも冷たくなんかなかった。
「待たせてごめん」
「……っ」
「好きだよ、まりあ」
同じ速度で心音があふれていく。
ハートの形が鮮明に感じ取れる気がした。
「も……もういっかい……」
「好きだ。ずっと、まりあのことが、大好きだ」
「あ、あたしも……っ。すき……大好き……!」
何度も、何度でも。
一緒に、約束を、積み重ねてくれる。
ねえ、もっと名前を呼んで?
そう、あたしの名前は――まりあ。