夏が、来た。



ごきげんな太陽。
暑く火照る空。
もくもくと踊るひこうき雲。


衣替えをして、制服は半袖になり。

いじらしく蝉が啼き出せば。



――もう、泣き声は、聴こえない。





「ねえねえ」

「ツインテールの、あの子さ」


「今日、すごくかわいいね!」




午前8時15分。

いつもの登校時間。


正門が陽気ににぎわっているのは、いつものこと。




「あっ! まりあちゃーん! おはよーう!」

「姫〜! 夏服かわいいね〜!」

「おいっ、おまえはまた……!」




門をとおると、例の騎士さまたちが一斉にアタシに気づいた。

風紀を取り締まるかのごとく、びしっと整列して礼をとる光景は、出会ったときとはまるで正反対。

自由奔放な昔もすてきだったけれど、今の真面目さもかっこいい。




「朝っぱらから騒がしいわね」




背後から美声が届き、振り返ると。




「お姫さま!」

「だからその呼び方やめなさい」




大きめにカールされたポニーテールが、ツンと風を切った。




「お姫さまおはよう!」

「……断固としてその呼び方なのね」

「うん! えへへ」

「……まったくもう」




仕方ないと言わんばかりの呆れ顔。

そんなところにまで気品を感じてしまうのだから、彼女は本当に、前世はお姫さまだったのかもしれない。




「……おはよう、まりあ」

「……っ!? え……!? い、今、名前……!」




前世を妄想していたら、感動的な言葉が聞こえたんだけど、気のせい!? 幻聴!?

興奮気味にワンモアと頼みこんでも、「なんのこと?」と、ニヤリとしてとぼけられてしまう。

うぅ……もっとちゃんと聞けばよかった!




「ほら、あなたの王子さまが来たわよ」




さらりと話題を変えられ、門の前へ意識をいざなわれる。



魔法の粉をふりかけるような、壮大なエンジン音。

かぼちゃの馬車の先を越すような、深い青色のバイク。


いかついヘルメットを脱ぐと。

まさしく異国の王子さまのような素顔が、陽を浴びる。




「……エイちゃん……」




エイちゃんの横には、ウノくんやお兄ちゃんもいる。

神亀のお出ましだ。


正門から校舎にかけての、短くて広い一本道に、だんだんと熱気あるどよめきが波打っていく。



なんだろう……なんだか、ふしぎな気分。

ここでエイちゃんと会うのが、ひさしぶりだからかな。



思い出す。

アタシとしてはじめて出会った、あの始まりの日を。