マリアの心臓







依頼は、失敗した。



標的の逃げ足が思ったより速く、SPの残党を連れ、人だかりに突っ込んでいってしまった。

道をせしめるほどの雑踏をかき分け、標的をとっ捕まえるのは、至難のわざだ。


翌日の夜、出直すことにした。



そして、現在。




「あの参謀、またこの店に来んのかな」

「よく言うじゃん、犯人は現場に戻ってくるって」

「何しに」

「証拠隠滅とか?」




ひとかじり欠けた月が、昇りだすころ。
高級ブティック店の看板が、金ぴかに点灯し出す。


一気に怪しさの増した店頭を、対角側に位置する路地から偵察する。


今日は学校をサボった。
しょうがない。仕事が最優先だ。


あんパンと紙パックの牛乳を片手に携えている羽乃と鈴夏は、すっかり刑事気分だ。いつもの黒のパーカーで、極力気配を薄めるのも忘れずに。

昨日の反省からモチベーションを上げるためなのか、何なのか。やっぱ仲がいいな、こいつら。




「変装くらいはしてる可能性が高い。用心しろ」

「衛は失敗を引きずりすぎ。あいつは逃げ足の速さだけが取り柄なんだって~」

「参謀自身はまっっったく強くなかったしな。変装してたってたかが知れてるぜ」

「……あ。ほーら、うわさをすれば」




店の前を通り、すぐに引き返してきた男がいた。

しかも、それを3回も。

トレンチコートと帽子とサングラスで厳重に身をくるい、きょろきょろと挙動不審な動きをとっている。


男が手招きをすると、少し離れた場所からSPの残党が駆け寄ってくる。


……あれ、隠す気ねえだろ。