マリアの心臓




ふっ、と冷たい風が、フードをさらう。

藍色に映えるメッシュが、夜を迎える。



いやな予感がした。




「っ! なんで……」




路地の細い隙間から、見えたのは。

見えてしまったのは。




「え……エイ、ちゃん……?」




ここにいるはずもない、あいつの姿。


幻覚? 他人の空似?

……んなわけがねえ。


オレが、見間違えるはずがない。




本物だ。

ほかでもない、優木まりあだ。


何かを胸元に握りしめ、愕然と見つめている。


オレを、見ている。




「な、なんで、エイちゃんそんなところに……? 何を、してるの……?」




それは、オレが聞きてえよ。

なんで、おまえがここにいるんだ。


……なんでだよ!



パーカーにしみついた血の臭いが、とたんにきつくなっていく。

殴り、蹴り、脅かした身体のすべてが、痛み出す。


心臓が、重たい。


痛い。

……痛ぇよ。



鈴夏と羽乃も、あいつに気づいた。
戸惑いを隠せずに騒ぎ立てる。




「え? は? なんで優木まりあがいんの?」

「え!? ……あ!! あいつ持ってるの、おれの携帯だ!」

「は? どゆこと」

「おれ……そうだ、教室に置き忘れたんだ……」

「なにやってんだよ!」

「ごめん……まじごめん……」




今日は、とことん、運が悪い。