マリアの心臓




「おれもいろいろ考えたの」

「へえ、すごいじゃん。おめでとー」

「そのおめでとうは、どういう意味だこら」


「無駄口叩いてっとバレんぞ。集中しろ」




ケンカするほど仲がいい、ってやつか?

でもそれだと、敵のヤツらにもあてはまっちまうな。それは勘弁。




「……鈴夏のせいで怒られたじゃねえか」

「責任転嫁はよくないぞ?」

「おい!」




アレだな、こっちは子猫のたわむれ。




「チッ、クソが!」

「舐めやがって……!」

「よそ見してんじゃねえええ!!」




で、あっちは負け犬の遠吠え。


耳障りだな。

口だけ達者なヤツが、数名息巻いてやがる。


残り半分程度だし、元気のよさそうなふたりに任せるとするか。



肝心の標的は、どこに……。
顎を殴られ、まだへたれこんでるか?


……あれ、いない?


辺りを見渡せば、隙を見て大通りのほうに逃げようとしていた。

小賢しいヤローめ。



中年男がほくそ笑みながら路地を抜ける、寸前。

ドンッ!!

出口を足で塞いでやった。




「ギャアッ!?」

「勝手に逃げてんじゃねえぞ」




そのまま足を素早く横に流し、中年男の腹を蹴り飛ばす。

踏みにじった跡のついた革靴が、片方、大通りのほうに転がり落ちた。




「ひゃっ!?」




中年男にしては、やけに、ひ弱な女声だ。


……いいや、ちがう。



今のは。

今の声は。


うしろの、大通りからだ。