「瀧先生、家で新聞読んできてくださいよ」
「ここで読んだほうがなぜか頭に入るんだよね。茜ちゃんも読んだら?」
「絶対眠くなるんで大丈夫です」
「清々しいね、君は」
あっけらかんと断る藤宮さんに、なぜか感心する瀧。
ふたりのやり取りにこちらまで気が抜けそうになっていると、藤宮さんは「それより先生、こっちで確認してもらいたいことが」と瀧を呼ぶ。彼は「はいはい」と返事をして新聞をデスクの上に無造作に置き、再び執務室を出ていった。
静かになったあと、俺はおもむろに瀧が置いた新聞に目をやる。同時に蘇るのは、やるせない思いとあの子の声。
『お父さん、なにか悪いことしたの? もう会えないのかな……』
泣きじゃくる女の子を見て、俺はあの子のような立場の人も守れる弁護士になろうと改めて強く決意したのだ。
開いた頭の引き出しから飛び出した記憶を、再びその奥にしまう。感傷に浸っている場合ではないと、やらなければならない案件へと意識を切り替えた。



