「こら、ちゃんとベッドで寝なさい」
「ここ気持ちいいのに~」
「風邪ひくって」
「お母さんみたい……」
ぽろっとこぼれた私のひと言に、彼は仏頂面になった。それがおかしくてケラケラ笑いながら立ち上がった、そのとき。
よろけて体勢を崩した私は、後方にあるベッドに足が当たり、「わ!」と短く声を上げて仰向けに倒れる。マットに背中が受け止められ、反射的につむった目を開いた瞬間、息が止まりそうになった。
聖さんの綺麗な顔がすぐそこにあるのだ。私の腕を掴んだままだった彼も一緒に倒れ、私を組み敷く状態になったらしい。
お互いに見つめ合った状態で目を見張る。
こ……こんな漫画でしか見たことがない事故が起こるとは! 私が押し倒すどころか、逆のオイシイ展開になっているじゃないか。
心臓がドクドクと暴れ出すのを感じるも、これは夢かもしれないと、現実との境が曖昧になっていく。
そして酔いと睡魔でうまく機能しない頭に浮かぶのは、昼間の小夏とのやり取り。
せっかくドキドキのシチュエーションになったのだから、ちょっとくらい誘惑してみようか。そんないたずら心が芽を出し、私はふにゃりと微笑む。



