「……六花?」
私の名前がぽつりとこぼれた瞬間、こめかみの辺りでドクンと音が鳴る感覚を覚える。
「六花か?」
確かめるようにもう一度呼ばれた瞬間、固く閉じていた記憶の蓋が開いた。
思い出したくなかった記憶も、大切で愛おしい記憶も、断片的ではあるが父と過ごしていた日々が一気に頭の中を駆け巡る。母から真実を聞く前に、この人が私の実の父親だと確信した。
「……おとう、さん?」
たどたどしく呟くと、立ち尽くしていた彼は泣きそうな顔になって私の目の前に歩み寄る。不思議なことに、もう怖さや不安は感じない。
「わかるのか? 俺が」
信じられないといった調子で目線を合わせる父に、私はぎこちなく頷いた。
「お父さんこそ、私がわかったじゃない」
十年以上会っていないのに、彼はひと目で私だと気づいた。それがずっと私を気にかけてくれていた証拠のように思えて、熱いものが込み上げる。
父は口元を緩め、懐かしさを感じる切なげな笑みを浮かべる。
「当たり前だろう。たったひとりの娘なんだから」
涙が溢れそうになり、唇を噛みしめた。



