これが、六花のファーストキスをもらってしまった事故である。相手は小学生だし変な意識はしなかったが、俺は赤面していたに違いない。キスも慣れていなかったから。
そしてもちろん、『誰にも内緒だよ』と指切りをしてよくよく言い聞かせておいた。この秘密は、今では俺しか知らない。
その年の春、俺は法学部のある東京の大学に合格し、ついに地元を出ることができた。もっとも、この頃はもう田舎が嫌だとはそれほど強く思わなくなっていたし、周りの偏見も気にしなくなっていたが。
たぶん、いつの間にか六花が心の拠り所になっていたのだろう。彼女が会いに来るなら、この町にいてもいいやとすら思えるようになっていたのだから。
とはいえ、やはり都会への憧れはあったので迷わず上京を決めた。それに、俺も東京に住んだら六花に会える頻度は多くなるはず。
実はだいぶ前から、雪乃さんからこんな話を聞いていた。
『六花ったら、七夕の短冊に今年も書いてたのよ。〝もっとひーくんに会えますように〟って』
離れていても俺を忘れないでいてくれることが嬉しかった。俺が上京すれば、彼女の願いを叶えてやれる。



