言葉を失くしていた碓氷さんが、さらに表情を暗くして口を開く。
「六花さんの生い立ちを知っても、ですか?」
ぴくりと反応し、彼女を見上げる。
生い立ちって、六花の父である菅屋さんの事件のことか? 碓氷さんも知っていたのかと驚くも、彼女の伯父が弁護を担当していたのだから知っていても不思議ではない。
「もちろん」
迷いなく答えると、彼女の瞳にみるみる涙が浮かび、表情は悔しさや悲しさが交ざったように歪む。こんなに感情を露わにする姿を見るのは初めてだ。
最後の悪あがきをするかのように、声を震わせて確認する。
「先生を、どれだけ愛していると言ってもだめですか?」
「……ええ、変わりません」
碓氷さんをしっかりと見上げ、「あなたの好意に応えられなくて、本当に申し訳ありません」と告げると、赤くなった瞳から涙がこぼれ落ちた。
誰に言い寄られても、俺の心は揺らがない。彼女を守ると決めた、十二年前のあの日から──。



