義兄の純愛~初めての恋もカラダも、エリート弁護士に教えられました~

「まさか……娘は、私?」


 半信半疑な気持ちで呟いた。さすがの碓氷さんも、驚きと困惑の表情でこちらに横目を向ける。

 私は父の記憶がない。それは物心つく前に離婚したからだと母も言っていたし、信じて疑わなかった。

 でも、真実はそうじゃなかったとしたら。なにかの拍子に記憶が抜け落ちてしまっていたとしたら。

 ──私は、犯罪者の娘かもしれない。その衝撃的な推測が真実味を帯びてきて、震える手で無意識に口元を覆った。

 碓氷さんが怪訝そうに尋ねる。


「どういうこと? まさか、記憶がないの?」
「……はい。父とのことだけ、なにも」
「そう……じゃあ、お母様に聞いてみるしかないんじゃない? それか、水篠先生に」


 冷静な口調で聖さんの名前を出され、私は運転席へ目線を向けた。


「先生が菅屋の事件を知らないはずがないし、もしかしたらあなたが娘だということも知っている可能性もある。そうだとしたら、これまで同情で一緒にいてくれたのかもしれないわね」


 無表情の彼女からどことなく冷たさを感じる声が放たれ、胸がシクシクと痛み出す。