ハンドルを握りながらこちらを一瞥する彼女に、私は首を横に振る。
いつもは激しい光を見たときに頭痛がするはずなのに、今日はそれに加えて謎の感覚に陥った。原因は火事ではなく、おそらく報道陣を目にしたのがきっかけだと思う。
あれがなんだったのか、自分の頭を整理するためにも先ほど体験したことを口に出してみる。
「あそこに集まっていた報道の人たちを見た瞬間、なぜか怖くなって。カメラやマイクを持った大勢の人に囲まれているような錯覚がしたんです。それと、確か『菅屋議員』って呼ぶ声が……」
「菅屋議員?」
ぴくりと反応した碓氷さんは、難しい表情になって言う。
「その名前で思い浮かぶのはひとりしかいないわ。元衆院議員で、十年以上前に汚職事件を起こした人物。なんでそんな人の名前が出てくるのかしら」
汚職事件を起こした人物? 本当になぜなのか、私自身にもわからない。
眉根を寄せて思案していると、碓氷さんは「スマホで調べてみたら? 画像で顔を見ればなにかわかるかも」と声をかけた。
なるほどと思い、私はバッグからスマホを取り出す。〝菅屋議員〟と入力して検索すると、スーツを着た議員時代らしき写真が出てきて目を見張った。



