いい香りのするそれに乗り込むと、碓氷さんはどこかに向かって車を発進させる。申し訳なさが募り、頭を下げて謝る。
「本当にすみません、ご迷惑おかけして」
「別に……あなたを見捨ててなにかあったら、水篠先生に恨まれそうだから」
無表情に戻っている彼女のツンとした返しに、苦笑がこぼれた。照れ隠しなどではなく、本気で私より聖さんのほうを気にしていそうなので、やっぱりいつもの碓氷さんだ。
そういえば、彼女は私たちが付き合い始めたと知っているんだろうか。ライバルのままだったら、こんなふうに助けたりはしないかな。
お互い聖さんに恋をしているのだと考えると気まずくなるも、とにかく今こうしてくれているのは彼女に温情があるからだ。「ありがとうございます」と感謝して、シートに背中を預けた。
碓氷さんはどうやらこの辺りをぐるっと回ることにしたらしい。すっかり暗くなり、綺麗な星が瞬く夜空の下をしばらくドライブしてもらっていると、徐々に気分も落ち着いてきた。
そのタイミングで、彼女がさりげなく問いかける。
「こんなふうに具合が悪くなることはよくあるの?」
「いえ……あ、ちょっと苦手なものがあって、それを見たときは」
「もしかして火事?」



