震えているのは室谷さんも同じだった。歯を食いしばってこちらを睨みつけている。
「クソ生意気なガキ……うるさいんだよ、ブスが! 消えろ!」
聖さんを押し退けた彼が、鬼のような形相で拳を振り上げるのが見えた。私は咄嗟に身を固くして目をつぶる。
「危な──っ!」
瀧さんの声と女性の小さな悲鳴が聞こえ、身体が誰かの腕に包まれる感覚を覚えた。
揉み合っている気配がして恐る恐る目を開けると、アキちゃんが私を庇ってくれている。私たちの前では、聖さんが室谷さんの腕を捻り上げていた。
瀧さんも援護に加わり、奇声を発する男を取り押さえる。私は身体が強張ってまったく動けず、心臓をバクバクさせてただその様子を見ているしかなかったが、聖さんの口の端に血が滲んでいるのに気づく。
「聖さん……!」
私の代わりに殴られたんだ。私が余計なことを言ったせいで、この男を逆上させて聖さんにケガまで負わせてしまった。血の気が引き、激しく後悔する。
瀧さんによって床にねじ伏せられた室谷さんと、聖さんはしゃがんで目を合わせた。その鋭い眼差しとは不釣り合いに、若干青くなってきている口元にはわずかに笑みが浮かんでいる。
その様子はまるで悪魔的で、人が変わったような彼を私は初めて恐ろしいと感じた。



