「水篠さんに電話してくれたんだ、ありがとね。でもオレが行って大丈夫かな……」
「大丈夫、初回は無料らしいから」
「いや、お金の心配じゃなく」
親指を立てて自信ありげに答えたのに、彼はなんとも微妙な顔をしている。キョトンとした私も、成人式の夜の一件を思い出してはっとした。
そういえば、聖さんはアキちゃんにいい印象を持っていないかもしれない。若干心配になるも、彼が「とりあえず場所移動しようか」と腰を上げたので、私もそれに倣って立ち上がった。
そのままアウトレット内で時間を潰し、聖さんに言われた通り人気の多い大通りを歩いて水簾法律事務所を目指した。すでに辺りは暗く、一応周囲を警戒しつつ歩いたが怪しそうな人の姿は見えない。
事務所に着くと、一度ふたりで目配せをしてアキちゃんがインターホンを鳴らした。名前を確認されてすぐ、開錠されて木製のドアが開く。
「どうぞ、お待ちしておりました」
迎えてくれたのは、碓氷さんではない別の女性。ふわふわの髪をルーズに縛り、えくぼができた笑顔が可愛らしい人だ。
中へ入ると、彼女は受付をしながら大きな瞳で私をまじまじと見つめてくる。



