事務所に電話をするのは初めてなので、少々緊張しながら番号をタップした。三回コール音が流れたあと、落ち着いた女性の声が聞こえてきた。
『はい、水簾法律事務所です』
「あの、初めてお電話させていただくのですが、法律相談の予約は今日はもう取れませんか?」
『申し訳ありません、本日はすでに一杯となっておりまして』
そりゃそうだよね、と肩を落とす。時刻は午後四時半を過ぎたところだし、今からなんて無理だろうとは思っていた。
でも、私が助けを求めているということだけは聖さんの耳に入れてもらいたい。かなり図々しくて申し訳ないけれども……〝ボスの家族〟という奥の手を使ってしまえ。
「私、水篠の義妹の吉越と申します。義兄に電話をしたことだけでも伝えていただけませんか?」
『……もしかして、六花さん?』
名前を当てられ、電話の相手は碓氷さんだったのだと気づいた。面識がある人だとわかると、少しだけほっとして声が明るくなる。
「そうです! あの──」
『六花?』
突然、聞き慣れた男性の声が耳に飛び込んできて、私は目を見開いた。



