「じゃあデートするか。ちょうど日曜だし、そこで欲しいもの買ってあげるよ」
こちらに向き直った彼が甘く微笑むので、私は胸を弾ませつつ唇をきゅっと結んだ。
簡単に〝デート〟って言えちゃう余裕さが、なんだか悔しい……。私はこんなにドキドキしているっていうのに。
歴然とした経験値の差を感じてちょっぴり口を尖らせるも、「約束だよ」と言って小指を立てる。
私たちはなにか約束事をするとき、いつからか指切りをして念を押すのがお決まりになっていた。子供みたいだけれど、小指だけでも触れ合えるこのやり取りが私は好きだ。
聖さんも頷いて小指を絡めたものの、口角をいたずらっぽく上げる。
「ただし、このパワポをしっかり完成させること」
「……余裕です。余裕」
「じゃあ帰っていい?」
「ダメです」
無慈悲なことを言うので即行で引き止めると、彼はおかしそうに笑った。
ずっと続けてきたこの関係を変えたくないのはヤマヤマだが、一歩踏み出したい気持ちのほうが大きい。触れられない距離をなくして、あなたの特別な女性になりたい──。
キッチンのほうから、ハンバーグを焼いているであろう音が聞こえてくる。まるで私の胸を焦がしている音のようだと思いながら、もどかしさで一杯になっていた。



