義兄の純愛~初めての恋もカラダも、エリート弁護士に教えられました~


 その瞬間、玄関のほうから物音がして間もなく、リビングダイニングのドアが容赦なく開かれた。反射的に腕を解き、六花はサッと離れていく。


「ただいま~。いい匂いがするなぁ」


 のほほんと入ってきた父に、六花は「お、おかえりなさい!」と妙に元気な挨拶をして出しっぱなしだった水を止め、俺は小さく息を吐き出す。

 ……一瞬、親の存在を忘れていた。やはり同居は良し悪しだ。

 最初に同居を渋っていたのは、今みたいにいつ両親が現れるかわからないのに、ずっと六花といたら抑えが効かなくなりそうだと懸念したからだ。正月もそうだったが、我ながらよく我慢していると思う。

 気持ちを落ち着かせる俺をよそに、六花は「ぎゃー、焦げる!」と叫んで慌ただしく油の中からカツを引き上げている。手はたいして赤くもなっていなかったし、とりあえず大丈夫そうだな。

 義兄としての仮面が剥がれるのも時間の問題だろう。もどかしさを感じながら、俺も夕飯の準備を手伝おうとできあがった料理をダイニングテーブルへと運んだ。