誘拐婚〜ある日、ウエディングドレスが贈られて〜

落ち着かせるようにひとりごとを呟き、フローラは借りている部屋のドアを開ける。そして真っ暗な部屋の電気をつけた時、信じられない光景が目の前にはあった。

「おかえりなさい、僕の花嫁さん」

鍵がかかっていたはずの部屋に、見知らぬ男性が百本のバラが使われた花束を手に立って微笑んでいる。赤毛がかった髪を束ね、結婚式で新郎が着る黒い燕尾服を着ている男性は、恐怖と驚きでその場から動けないフローラに近付く。そして愛おしげにその頬を撫で、抱き寄せた。

「フローラ、ずっと君の帰りを待ってたよ。君が他の男にヘラヘラしているのを見ていて、ずっとムカついてた。でも君は真面目で優しいから、どんな人間にも冷たくできないんだよね？昼間、爺やを客として潜入させてよくわかったよ」

「でも、もう笑顔を振り撒くのは僕一人だけでいいんだ。フローラは僕にだけ笑って、僕にだけ全てを見せてくれればいい。僕にだけ花束を作ってくれればそれでいいんだよ」