ぼんやりとする頭でフローラが最後に見たのは、鋭く尖った人のものではない犬歯を見せ、口から滴る赤い何かを拭いながら笑うクラウディオの姿だった。



フローラが目を覚ますと、高級そうなソファに寝かされていた。体を起こすと、先ほど寝室で見たウエディングドレスを着せられており、頭には長いベールがつけられ、髪が綺麗にまとめられている。

部屋はソファと高級そうなドレッサーが置かれ、テーブルの上にはクラウディオが持っていた花束が置かれ、天井にはシャンデリアが吊るされている。全く見覚えのない部屋だ。

「私、あの人に連れ去られたの？」

早く逃げなくては、そう思いながらフローラが立ち上がった時、部屋のドアが開いて誰かが入ってくる。

「花嫁様、式が始まります。挙式をする会場まで向かいましょう」

黒いスーツを着た女性が驚くフローラの腕を素早く掴み、引きずるように部屋の外へ連れて行く。その力は人のものとは思えないほど強く、フローラは振り解くことができなかった。