「そろそろ寝よ。ほら薬飲みな」

 これ以上ヴィオルドと話していると自分が自分でなくなりそうで、ミーナは立ち上がった。サイドテーブルに置かれていた悪夢除けの瓶を彼の前に差し出す。

 彼は「そうだな」と薬を受け取った。トレイからスプーンを取り、瓶のフタを開けて零さないように少量注ぐ。

「私、部屋に戻るね。上着ありがとう。椅子にかけておくね」

 ヴィオルドがスプーンをくわえる様子を横目で見ながら、ミーナは無機質に言葉を放ち扉へ進んだ。住人が家を出てからしばらく開閉されていなかったドアは音を立てながら開く。彼女は音を立てずに扉をくぐり、閉めるドアの音が再び響いた。

 自室に戻った彼女は扉を背にして一息つく。もう自分を偽れない。これ以上は放棄できない。今まで目を逸らしてきた感情を直視する決心をする。

――私は、ヴィオのことが……。

 認めてしまえば楽になるかと思ったが、そういうわけではないらしい。ミーナは胸の内に渦巻く感情を抱えながらその場に座り込む。フィルへの嫉妬心なんていらない。持ちたくない。

 彼女はミーナの友達であり、ヴィオルドの後輩だ。ミーナとフィルが仲良くするようにヴィオルドとフィルが仲良くすることは何も特別なことではない。

 フィルとヴィオルドの方が知り合ってから長いのだから、ミーナより多くを知り信頼関係があったところで不自然なことなどない。そのうえ、ヴィオルドが過去で苦しんでいるときにこんなことを考えるなんて、と彼女は自分を責める。理解しているからこそ、余計につらかった。