『三振を勝ち取りました、日下部。いい滑り出しです』



「なんだよ。キヨマサ、イケメンじゃねーか。」


…たしかに。

少ない眉毛とコロコロ変わる変顔のイメージが先行してイケメンと思ったことはなかったけど

改めて見るその顔は、とても整ってる。


事実、一年生で日下部清政の名前が全国区になった頃、イケメンだとSNSで話題になり女性ファンを大勢獲得した…という話を聞いたことがある。



「美琴。お前随分とでっかい魚を釣り上げたな」


「…」




大浦高校はその後3回裏で1点先取するも、5回表で相手校に1点を許してしまい、流れは完全に相手高校。



場面は9回裏、2アウト満塁。

大きな体のキヨマサくんがバッターボックスに入ると、アナウンサーが興奮した様子で実況する。


『さぁ、日下部清正、プレッシャーの2アウト満塁、サヨナラ逆転のチャンス。ピッチャーはエース、西角。こちらも多くのプロ野球団が目をつけている投手です。注目のエース対決。甲子園への切符を手にするのは、どっちだ…!?』





1投目。




…ストライク。


キヨマサくんが上を見て、フー…と息をつく。


テレビにかじりつく私と兄も、フー…と息をついた。



「がんばれキヨマサァ。」


祈りのポーズで兄がつぶやく。

すっかりファンになった模様。






2投目。




…ボール。


 
「…ッぷはぁー、ふぅー。」


兄が息を止めていた模様。

目が血走ってる。





『ッシャァーーーー!!!!!!』



テレビから雄叫びが聞こえた。



『おぉっと!バッターの日下部、大きな声で気合いを入れました。』

『次絶対打つぞ、という気持ちの表れでしょうか。』

『大浦高校の野原監督、渋い顔してますね』

『監督は試合前のインタビューで日下部は大事な場面になると気持ちが昂って突っ走る癖があるとおっしゃってました。』

『本来ならここはポーカーフェイスで相手ピッチャーに悟られないようにするのが正攻法ですね。これも作戦かもしれませんが…』

『さぁ日下部、これが吉と出るか凶と出るか…!運命の一投です!』






3投目。





……打った!!



キヨマサくんは明らかに低い、打ちづらそうなボールゾーンの悪球を思い切り打ち上げた。