8:54着、春寝駅行きのバス。



土曜日のこの時間はこれから遊びに行くらしい家族連れや学生たちで賑わっている。



そんな中、私は寝不足の目をこすってボーッとよく晴れた外の景色を眺めている。




昨日


時山君からの突然のお誘いと

電車での不思議な出来事


心を掻き乱されるような事件のダブルパンチに気持ちが追いつかず、鋼メンタルの私もさすがに参ってしまって全然眠れなかった。


母に朝から出かける、とだけ言うと、兄が男か?男か!?と聞いてきて、ちゃんと否定できなくてすぐにデートだとバレた。


すると母が慌てて押し入れの奥をガサゴソして「これ!お母さんが若い頃の勝負服!頑張んなさい!」
とガッツポーズ。


からの、このワンピースである。


お腹部分がリボンで結べるようになってる白のシャツワンピース。

ところどころフリルがついてて女の子らしいデザイン。

兄がどこから出してきたのか黒のスニーカーと黒靴下を出してきてこれを履けと渡してきた。



これ似合ってるのかな?大丈夫かな…


ワンピースなんて普段着ないから変な感じ。




…それにしても眠い。



なんとなくボーッと見た先にいた男の子の耳に、ピアスがついている。






…昨日の銀髪のピアスの人のことを、夜中ずっと考えていた。




…誰?




これまでの人生の記憶を辿っても辿っても、その人には辿り着けなくて。

でも私にとってその人は、すごく大きな存在なのは分かる。

どうして思い出せないんだろう。

絶対に、知ってる。



ていうかピアスの人が言ってた『おっさん』も誰のことかわからない。



これから時山君に会うと言うのに、電車でのことが気になりすぎてそのことばかり考えてしまう。

そうこうしてる間にバスが終点の春寝駅に到着した。



『お忘れ物のございませんように……』