初恋は、君の涙に溶けていく

前方の窓から、八尋が降りるバス停が見えてきた。

 
「じゃあね、ひさびさに七花に会えて嬉しかったよ」

「…………うん」

別れの言葉を言って、立ち上がった八尋に、私は落ち込んだテンションのままで返事を返す。

そのまま降車口に向かう背中を黙って見送るくらいしか、私に出来ることはない。

そう思ってたけど、唐突に大事なことを思い出した。

八尋と再会したら、やりたいと思ってたこと。

「八尋、待って! 私、スマホ買って貰ったの。連絡先、交換して?」

ウチの親は厳しくて、中学生の間はスマホどころかガラケーさえも持たせてもらえなかった。

今時は、中学生でもスマホを持っていないのは少数派で、今までずっと肩身が狭かったんだけど、高校入学と同時に、とうとう念願のスマホを買って貰えた。

だから八尋に会えたら、絶対に連絡先を交換しようと、ずっと思ってたんだ。


私と八尋は、バスがバス停に止まる寸前に、降車口の前でお互いのスマホを取り出して、急いでお互いの連絡先を交換した。

「ばいばい、八尋。またね」

私って、現金なやつだ。

八尋の連絡先をゲットした途端、さっきまでの落ち込んでた気持ちが軽くなって、バスから降りていく八尋を笑顔で見送れた。

学校では、また中々会えないかもしれないけど、私はもういつでも八尋と連絡がとれるんだ。

嬉しさと安心感で、気持ちが高揚する。

スマホを持っていない時からの夢だった、好きな人との連絡先交換ができて、ちょっと興奮してるのかもしれない。

手の中にある、八尋の連絡先が登録されたスマホは、いつもより特別に輝いているように感じた。