八尋が私のことを好き?
自信満々に言い切る里穂の言葉に混乱する。
胸の奥がざわざわと騒いでる。
私は失恋したはずなのに。
まだ希望があるみたいなこと言われて……。
もしかしたら、って思いたい自分がいて……。
でも、…………だけど。
『でも、ごめん。七花を彼女にはできないんだ』
頭の中で、あの時の八尋の言葉が再生された。
八尋に確かにそう言われた。
八尋は私に嘘なんてつかないんだ。
だから……。
「……もう! 知らないよ! そんなこと言われたって、八尋は私のことを振ったんだし、どうしようもないじゃんか!」
里穂の話を聞いてる内に、なんかもう訳わかんなくなって、爆発した。
駄々をこねる小さな子供みたいになって、泣くのと怒るのの中間みたいな感情で、癇癪をおこした。
本当に子供みたいで自分が嫌になるけど、止まらない。
「大体、なんで里穂に八尋の気持ちがわかるの? 八尋と友達でも何でもないし、八尋のこと全然知らないのに!」
私はもう半分怒って喧嘩を売ってるみたいになってた。
「私は七花の友達だから。七花といつも一緒にいる藤井のことは、よく観察してたんだよ」
「でも…………!」
「ごめんね」
感情的になってる私と違って、里穂はぜんぜん冷静で、私の喧嘩を買ったりしないで、逆に謝られた。
それから泣いている子供を慰めるみたいに、私の頭にぽんぽんと手を置いて、抱きしめられた。
だって、半分怒ってる私の、残りの半分は泣いてたから。
心の奥底に沈めてた『失恋』が溢れてきてる。
里穂が私を抱きしめたまま、今度は背中を優しくぽんぽんと叩いてくれる。
なんだか子供の頃に、お母さんにされたみたい。
里穂は、私のお母さんなのかな?
「ごめんね。外野が勝手なこと言って」
「……ううん。こっちこそごめん」
先に里穂の方から謝られて、頭が冷える。
「私を心配して、言ってくれたのに、ごめん」
普段クールな里穂は、他人の恋愛に口出ししたりしないのに。
私が友達で、大事に思ってくれてるから、言ってくれたんだ。
そう思うと里穂のことが愛おしくて、私の方からもぎゅっと抱きついた。
もう下校時間のピークを過ぎていて、校門近くには私と里穂以外の人影は見当たらない。
もし今、誰かが通りかかったら、女の子同士で泣きながら抱き合ってる私達を見て、どう思うかな?
カップルに見えるとか? 里穂なら美人だし、頼もしいし、優しいから里穂と付き合ったら幸せかもしれない。
そんなお馬鹿な想像が頭に浮かんだせいか、怒りも涙も両方引っ込んだ。
